マダツボミの観察日誌

古典からギャルゲーまで備忘録兼感想帳

Summer Pockets感想

歩き続けることでしか届かないものがある― 

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  『Summer Pockets』、オールクリアしましたが本当に素晴らしかった。シナリオライターが新しい人だったり、いたるがいなくなったりと色々ありましたが、keyの名に恥じぬ名作だと思います。Airのような雰囲気を持ち、CLANNADのような家族愛を描いて、リトルバスターズ!のような瞬間的に感動する要素もあり、00年代key作品の良いところを詰め込んでうまく調和がとれているという風に感じました。

 雰囲気、台詞回し、個性的でどこか暖かいキャラクター達、印象的なフレーズを持ったOP・ED、そして感動的なシナリオとどこをとっても良く、この作品をプレイできて本当によかったとそう思います。そして、そんな小賢しい理屈を抜きにしてとにかく泣けるんです。シナリオが、CGが、演出が、声優の演技が、BGMが、挿入歌がすべてが私を泣かせようとしてくるんです。この感想を書くにあたっても何度か読みなおしてその度にぼろ泣きしました。ああそうだよ、泣きゲーってこういう感じだったなと懐かしい感じすらしました。こういう作品が出るからまだまだギャルゲーを卒業できないんだ・・・。

 

 ここから先はネタバレになるので、未プレイの方はこんな感想を読む前に絶対にプレイしてみてください。

 今回は個別ルート毎の感想残します。

 

 

蒼ルート

 蒼ちゃんは本当にちょろかわでしたね。蒼ルートだけは原画がつばすということもあり、普通のエロゲーをやってる気持ちになりました。蒼の蒼姦シーンみたかったです(ノルマ達成)。

 勿論、蒼のむっつりすけべなシナリオもとても楽しく読めたのですが、姉妹の愛や大切な人を失う悲しみ、そしてまた出会える喜びを感じられ泣けるルートでもありました。

 無茶だと分かってても藍ともう一度話したいという気持ちから、七影蝶に触れ続ける蒼とそれを見守る羽依里。これ私なら何をしてでも蒼が七影蝶に触れされるのをやめさせようとすると思います。だって好きなのは今を生きてる蒼なんだから蒼が眠りについてしまったら意味がないと思うから。でも羽依里はとめなかった。過去と向き合うためにはそれが必要だと思ったから、結果蒼は眠りについてしまったけれども、つかの間でも藍と会うことができて過去を清算できて心の底から笑うことができた。その選択はなかなかできることではないし、これが人を真に思う心なのかと感じました。

 エピローグ、眠ってしまった蒼を再び起こすために今度は羽依里が蒼の七影蝶を探し、ラストシーン蒼は笑顔で目が覚める。このシーン一体何年後の話か分かりませんし、この後もしかしたら羽依里が眠りについて無限ループになるかもしれない、ただ今度こそ笑顔で夏を一緒に過ごせるようになっていることを願わずにはいられませんね

 

〇ルートメモ

蒼ルートは七影蝶に対しての補足ルートであるとも言え、次のことが分かります。

・七影蝶は記憶の残滓

・七影蝶に触れると記憶を取り込むことができる

・七影蝶から記憶を取り込むと記憶の整理のための睡眠時間が増え、取り込みすぎると記憶が七影蝶となり溢れ出てしまう=自分の核となる記憶が体から抜けるので永遠の眠りにつく

 最後、眠りについていた蒼が起きるわけですが、これは藍の時と同様に主人公が蒼の七影蝶を探し出して蒼に戻したと考えるのが自然ですね。でもこうなると次は七影蝶を取り込みすぎた主人公が永遠の眠りについて無限ループしそうですね。無理しなければ大丈夫なんでしょうか。

 

鴎ルート

 鴎ルートはalka、pocketを除けば、4つのルートの中だと一番好きだったかもしれません。最後の最後までミスリーディングに引っ掛かって(それこそキャリーケース開けて初めて理解した)、理解が追っつかないまま感動をぶつけられたのでぼろ泣きしました。

 鴎は多分もう寝たきりで自分の体で外を歩くことはないでしょう。鴎がかつて見た夢、昔の友達を驚かすことはもう叶わない。鴎の夢を羽依里が引き継ぐわけだが、もう鴎が死んでしまっていたら羽依里が今やっていること(海賊船作り)は全部無駄かもしれない、でもやる。その感情ってとても尊いものだと思う。自己満足でもなんでもやらなければ区切りがつかないことってある。

―歩き続けることでしか届かないものがあるよ

 海賊船が完成し、帆をはり沢山の読者が思い出を共有したとき、再び鴎が現れる。頑張ったから、歩き続けたから、再会できる。こんなに素晴らしいことはない。私はこういう頑張って頑張って報われる類の話に弱くてすぐ感動してしまうんですね。手紙を1通1通書いて送って、懐かしさから300人もの人が鴎に会いに来るところはぼろ泣きしてました。

 最後満足して鴎は旅立ってしまうが、また翌年再会します。再会したときの鴎は生身の体を持っているわけではなさそうだが、想いの結晶が鴎を形作り夏毎に出会えているのだろう。未来はないかもしれないけど美しい。そんなルートでした。

 

〇ルートメモ

 宮沢賢治春と修羅には次のような一節があります。

わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です

(あらゆる透明な幽霊の複合体)

 この解釈は諸説ありますが、人間の意識は現象であり、様々な人間の意識の複合体としてこの世界に存在していると解釈しています。これは大乗仏教の考え方とも似ていますね。

 さて、鴎は七影蝶となって島にやってきます。蒼ルートから七影蝶は悔いを残して死んでしまった人間の記憶の残滓であると言われていますから、この時点で鴎は死んでいると考えられます(作中でも長い眠りについたと言われている)。何故鴎が現世に顕現したかですが、これは主人公が過去に鴎に向けて手紙を送ったことがあり、この繋がりから七影蝶が主人公に幻を見せたのではないか。

 どうも意識が集まると存在が構築され、思いが世界を構築するらしい。これは羽未の存在からも言えます。

 ならば鴎の母親と羽衣里しか認識していなかった鴎という存在が、多くの昔の友人(読者)が集まることによって意識が集まり鴎が再度現れたというのは分かりそうなものである。

 最後の七つの海を越えてあなたに会いに行くについてだが、これは羽未が時空を超えるときにも言っている台詞である。どうやら七つの海はキーワードらしい。

 七つの海はそのまま捉えれば現実世界の全ての海を指しているように思える。それだけ大きな道のりを越えてきたともとれるが、何か仏教的な意味がありそうな気がする。九山八海は海の数が違うし、うーん。誰か得意な人教えてください。

 

紬ルート

 紬ちゃんメッチャ可愛いくないですか?私は1日1回むぎゅっ!を聞かないと生きていけない体になりました。

 紬ルートは、はじめからいなくなることを分かっているけど、だからこそこの1回の夏休みを全力で遊ぼうという話なんだが、これだけの話がとにかく良かった。どこかの感想でその辺の道端に落ちている雑草を滅茶苦茶うまく調理してるっていうのを見ましたが言いえて妙だと思います。本当にすごい普通にボーイミーツガールして遊んで恋してそのあと離別があって、再会する・・・そんな普通のお話なのに心をガンガン揺らしてくるんです。

 何故かって、毎日が本当に楽しそうだったから灯台を掃除をして、パリングルスでベランダを作ろうとしたり(冷静に考えれば頭のおかしいやつですね)、みんなで星を見たり、お祭りに行って綿あめ食べて花火を見たり、ハロウィン、クリスマス、節分、バレンタイン・・・そして誕生日。本当に楽しそうで、羽依里も静久も島のみんなもいいやつで、だからこれで満足だろうと送り出すとき、やっぱりもっと遊びたい!別れたくない!となってしまう気持ちに凄く共感してしまうのだ。

 途中から夏休みが終わった後のことを意識してしまって、紬が泣いてしまったり、最後の最後まで泣かないと決めていたのにやっぱり最後は何故この先の夏に紬がいないのかと泣いてしまう羽衣里とか見てたら、もう涙腺が緩んで仕方ありませんでした。

 あと演出が完全に卑怯でした。最後の5000本のキャンドルでお誕生日を祝うシーンが(お盆の見送りを思い出すようで)すでに感動的なのに、止めに挿入歌で『紬の夏休み』が流れるわけですよ。正直こんな歌で!と思いつつもメッチャ泣きましたね。紬の楽しかった気持ちと、羽依里や静久への友愛の気持ちが苦しいほど伝わってきて、ダメでした。そりゃあんな歌聞いたら我慢してた羽依里君も泣きますよ。

 エピローグで紬はどうやら羽依里たちと再会できたようです。これから先も楽しい毎日が想像できそうで、本当に幸せなエンディングでした。4ルートの中でもしかしたら一番ハッピーなルートかもしれないですね。

 

〇ルートメモ

 神隠しは最後までやっても明言されていないが、以下のようなことが分かっている。

  • ツムギが囚われている場所はしろはが能力を手に入れようとしていた場所と同じっぽい
  • 前に進むかとどまるかの決断ができないと留まり続ける
  • 灯台にはずっとなにに囚われていたのかも忘れてしまうぐらい長い時間そこにとどまっているものがいる(大量の蝶たち)
  • 現実に戻りたいと強く願えば現実に戻れる

 どうやら過去に囚われすぎると迷い橘のある場所に飛ばされるらしい。そして過去に戻りたいと強く願えば心だけ過去にとばせるようになるし、現実に戻りたい、過去ではなく明日を楽しみたいと強く願えば現実に戻れるようである。またどちらも選べなければ神隠しとして時の牢獄に幽閉されるらしい。

 最後に紬が戻ってこられたのもの、ツムギという過去の思い出よりも、羽依里たちと過ごす未来のほうが大きくなったから出てこられたのではないかと考えられる。

 ではそもそもなんでぬいぐるみが紬になったのかだが、これは本当にわからない。大切しているものに霊魂がやどるっていうのはよくある話だが、特に説明がないように思える。

 

しろはルート、Alka、pocket

 本編である。しろはルート自体はそこまでもなかったが、つながるAlka、pocketsはぼろ泣きしましたあそこまで幼くならないと自分の本音を言えないほど、過酷な家庭環境で理性的に育たなければいけなかったうみちゃんに、幸せな家族3人での夏休みを過ごした後に待っている残酷な未来に、そして未来を変えるためうみちゃんがその存在をかけてとった行動に、うみちゃんへのしろはの想いに、もっともっと一緒にいたかったという想いに、もう涙せずにはいられなかった。ここまで泣いたのはリトバス以来かもしれない、この感想を書くのにもう1週やってもう一度ぼろ泣きしました。くやしい。紬のときもそうだったが、いくら1回の夏が楽しかったとはいえもっともっともっと遊びたかったはずだっていうのが凄くわかってしまう、それでもしろはのために満足だと言って去る。自己犠牲はダメなんだ、泣くんだ・・・それをあんなに小さな子供にやらせるのは残酷すぎるよ・・・。

 でも夏休みは終わらなければいけないのだ。夏休みが終わったら宿題が終わってなくて怒られるかもしれない、退屈な授業を聞かなければいけないのもつらいだろう。でも夏休みは終わらなければいけないのだ。そして夏休みはまた来る、だから全力で遊べる、だから楽しいのだ。終わらない夏休みは自由という名の牢獄のようなものだと作中で鏡子さんは言っている。

 しろはルートの構造は夏休みをずっと楽しんでいたい(しろは)vsもう夏休みはおわりだという(うみ)になっている。

 しろはの気持ちも痛いほど分かる。死んでしまう未来が確定しているなら、過去に戻って楽しかった夏休みを繰り返したいと思うし、もっと戻って能力を得ることをなかったことにしようとすれば、羽未に会えなくなってしまうと思えばもう時の牢獄に引きこもってしまうのも無理ないだろう。

 その点うみは大人すぎるぐらい大人だ。ただうみの場合はもう3人の夏休みを過ごせないわけで(羽未は過去に存在しない人間だからループするごとに存在が希薄になり、恐らくもうループしている夏休みに現れることはできない)、元の世界に戻ってもただただ辛い日々が待っているだけ(しかも山で崖から落ちてるからそもそも助からないかもしれない)だから根本解決しようというのは、ある意味逃避なのかもしれない。

 pocketの最後、主人公は未来に忘れてしまったはずの思い出の欠片を見つけ、しろはに会いに行く。もしこの後主人公としろはが結ばれても、うみは産まれないかもしれない。だが願わくば、また3人でもっともっと楽しい夏休みを過ごすことをと思ってしまうのを止められない。

 未来はどうなるかなんてわからないけど、歩き続けなければいけない。きっと楽しい未来が待っているのだから。そんな当たり前のことを思い出させてくれる本当にいいシナリオでした。

 

 しろはルートの考察はまた次回にしたいと思う。時の編み人とか鏡子さんが何者だとか分からないところも一杯あるのだが、再プレイする度に涙が止まらなくて全然考察が進まないのだ。

というわけで長くなりましたが、今回はこんなところで。本当に素晴らしいギャルゲーをやれて嬉しかった。