マダツボミの観察日誌

ギャルゲーマーによる、ギャルゲーやラノベの感想、備忘録とか

はつゆきさくら感想【ネタバレ注意】

初雪から桜まで、卒業おめでとう――――

『はつゆきさくら』、今更ながらにプレイしました。2012年発売ということで、随所で時代を感じさせられましたね。携帯の赤外線でメルアド交換とか、これまだ6年前の話なんだな、なんて思うと吃驚してしまいます。

 卒業ルートまでクリアしての感想ですが、ああやっぱりこうなってしまったかといったところでしょうか。プロローグで桜が自分のことをお姫様だと言ってきた時点で覚悟はしてたものの、実際救われないのは如何しがたい。

 確かに最後主人公の初雪君は長年の呪いから解かれましたし、桜ちゃんも心残りを解消してバニッシュされていって話としては綺麗に終わってますね。前提条件として桜ちゃん死んでるのでどうしようもないのですが、やっぱり生きて幸せに結ばれてほしかった。

 そもそものお話の騒動となったホテル爆破の主犯たちは、初雪君が復讐をやめたことにより無罪放免ですよね。実際は捕まってるのかもしれませんけど、真相は闇の中みたいです。綾ルートで執拗に嫌がらせをする不良に対して暴力を振るった妻君も言ってましたが、こういう悪党は懲らしめなければいかんでしょう、と私も思うわけです。

 でも、こういう理不尽も何もかもぐっとこらえて、それでも卒業してほしいというのが希ルートだったわけで、それに立ち向かって社会から反逆して結局死んでしまったのが来栖先生でしたね。正しいことが必ずしも正しいとは限らない、そういう意味で今作では明確な悪役を作っていないように感じました。明確な悪役を作って成敗してしまえば、正しいことが正しくなってしまいますから、それではいけなかった。

 ですので、物語の主張からしても、この流れは妥当なんですけど、なんですけど、なんとなくスッキリとしないこの感情をどこにぶつければいんでしょうか。綺麗に終わっているんだけど何も解決していないようで、これもすべて時間がたてば浄化されるのでしょうか。

 

 ちょっとキャラの話をしましょう。

 今作はちょっと昔のゲームということもあって絵が古めなのですが、ヒロイン皆可愛かったですね特に綾と桜が良かったんですが、両方碌な終わり方を与えられていないのがなんとも言えません。

 特に綾ちゃん、卒業ルートの裏ヒロインとしてのまさかの抜擢でしたね。このルート、まあ結末だけみればBADエンドもいいところですけど、個人的には結構好きでした。最期まで愛に生きる、これもまた人間なのかと。

 そもそも綾のキャラがめちゃくちゃ好きでした。ミステリアスな雰囲気からの可愛い感じがたまらないですね。大ヒットです。それだけに、プロローグやった時点で記憶がないことがわかっていたので、もう回想読んでるときは辛すぎて死にそうでした。おさげゆってもらうときの幸せそうな綾ちゃんのCGがめちゃくちゃ好きなんですが、めちゃくちゃ好きなだけに辛かった。最初からBADエンドだと思って幸せな話を読まされるのは結構きついですね、あんまりないパターンだと思います。「まかのろんさ」とかいうクソくだらない親父ギャグで号泣する日が来るとは夢にも思ってなかったです。伏線だったとは・・・。

 桜も綾には負けますがよかったですね、純粋に無垢な可愛さといいますか。まあそれもそうですよね、ロリババアの逆で幼女が高校生の皮に入ってる状態ですから、ロリコン的には歓喜なのかと。その昔、『ななつ色ドロップス』の皐ユリーシアちゃんってキャラがいましたけど、それも同じような設定でめっちゃ可愛かったですね。ただ桜も消えることが確定していたので、そこがシナリオを読んでいてとにかく悲しかった。

 

閑話休題 

 さて、一重にギャルゲーといっても本当にいろんなものがあって、泣きゲー、キャラゲー、哲学、抜きゲーなどありますね。今作は一般的には泣きゲーの部類に入るのかも知れませんが、ちょっと毛色が違ったかなと思います。

 過去にとらわれ続けたり、復讐なんてのには意味がない、どんなつらいことがあってもとにかく前に進め、進んだ先に何かがある・・・こんな台詞達は各所で聞いてきたものですが、過去を清算しない作品というのは新しいなと感じました。一応桜の心残りはなくなり成仏したという意味では清算していますが、根底に流れる内田川邉の問題は解決していないです。そういう意味で現実的な作品だなと思います。現実はなんでもかんでも解決して前に進んでいくわけじゃないですよね、そういうところを表現したかったのかではないでしょうか。

 最近ではSNS等を使って、簡単に自分を発信できるようになりましたから、過去に囚われたゴースト達が一杯いるのが目に見てわかるようになりました。生者をゴーストの領域に引きずりおとそうと躍起になっている様は見ていて痛ましいのですが、それでもやらざるを得ない、現状の理不尽をどこかにぶつけないと気が済まない、そしてもしかしたら自分の過去の美しい思い出にまた出会えるかもしれないと思ってしまう気持ちも分かります。

 でもはつゆきさくらは言っている、そんなものがありはしないと世の理不尽も悲しみも全てぐっと胸にしまって前に進めと、前に進まないと分からないものもある、だから前に進めと

 シロクマルート卒業式での校長の挨拶はそれを教えてくれます。

 「ゴーストを知っていますか?」

「幽霊でもいい。お化けでもいい。あるかないかしれない、怪奇の存在です」

「ゴーストというのは闇の中にしか生まれないものです」

「しかし闇の中にいる以上、人には見えない。つまり、どうやっても人の目に映るはずのない者たちです」

「光で闇を照らしたならば、その時、闇は消え、ゴーストもまた消えるのだから」

「あるとしても、決して見ることはない。ゴーストとは、そして人の不安の正体というものは、存外、そういうものです」

「不安な人間は、自身の不安の正体がわからないからこそ、いつまでも不安だ。対処のしようもない」

「不安の正体を見つけようと、光で照らしてみれば、存外、そこには何もなかったりする。ただからっぽの、穏やかな部屋の様子が見つかるくらいです」

「己の杞憂に苦笑いをして、再び灯りを消して扉を閉じて彼は外へ出ていく…」

「が、ほどなく聞こえてくる。扉の向こうで誰かがささやく声が、とんとんとあちら側からノックする音が。カリカリと、何かをかきむしる音が」

「不安が、そこにある」

「皆さまはこれから、いくつもの正体不明のゴーストに出くわし続けることでしょう」

「つかんでもつかめない。みえないけども、確かにどこかにいるゴースト達が、あなたの失敗を不幸を、闇の向こうからクスクスとあざ笑う」

「そんな時は、どこかにいるゴーストを探そうとするよりも、己を見つめ、心の内を照らしてみることです」

「胸に確かに残る、明るい記憶で・・・」

「どうか今日という日を忘れないでください。皆様の門出を祝福するために、空が晴れ、多くの方が集まり、こうして厳かに式が執り行われたことを」

「そこには確かに、『おめでとう』の一言が捧げられるだけの理由があるのです」

「その祝福を、忘れないでください」

「それがいつか、あなたの前に現れるゴーストを討つための、力となるでしょう」

「ささやかながら、私からもその一助となるように、心からこの言葉を贈りましょう」

「卒業おめでとう」

 

 前に進めば、祝福が、楽しかった思い出が、不安という名のゴーストを討つ助けになる。

 今に生きる人も同じで、とにかく今やっていることをやり切ること、それが楽しい未来を創る唯一の方法なのだとはつゆきさくらは教えてくれる。

 はつゆきさくらは決して神ゲーではないと思う。正直終わり方はちょっとすっきりしないところがあるし、万人に薦められるゲームでもない。

 でもこれは間違いなく名作である。やってよかったと心から思える。一昔の前のゲームですが、日々を不安に思いながら生きている方には是非やってほしいそんなゲームでした。