マダツボミの観察日誌

ギャルゲーマーによる、ギャルゲーやラノベの感想、備忘録とか

【全ての若者へのエール】ATRI-My Dear Moments-感想【ネタバレ注意】

――地球に私も含まれますか?

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 『ATRI-My Dear Moments-』プレイしました。透き通るような青を基調としたCGがとても綺麗で、滅びゆく世界の中でもどこか暖かい町の住人達もあいまって、雰囲気が素晴らしく良いゲームでしたね。『9-nine-』もそうでしたけど最近はロープラのクオリティが高くて驚きます。こういうメインシナリオが一番大事だというギャルゲーは間延びしがちであることも多いので、意外とロープラとの相性はいいのかもしれません。個人的にもまとまった時間が段々取れなくなってきましたので、10時間ぐらいで終わるロープラの良作がドンドン出てくれるのは嬉しい限りです。

 プレイしての感想ですが、『ATRI』は割と使い古されたテーマを用いており、目新しさを感じることは少なかったですね。しかし、TRUE ENDまで最後まで上がり続けて一番良い終わり方をした作品でした。通常のグッドエンドでも十分良い終わりだと思いましたが、CGが足りないからまさかと思いバッドエンドを回収したのちに、TRUEENDが出た時はテンション上がりましたね。別れの美学というのは勿論あると思いますが、それじゃあやっぱり寂しいから、例えご都合だと言われようとも、本作のような最後に再会して終わるハッピーエンドが私は大好きですね。

ドン底からのスタート

 ストーリーのはじめはナツもキャサリンも住民たちもドン底からはじまるんですよね。足を失って、夢を失って、希望を失って、退廃的な空気が流れる中、ナツはアトリに出会います。そこから先生がいない学校で先生の代わりに勉強を教えて、発電機を作って学校に光を灯してと、少しずつ良くなっていく中で、ナツもキャサリンも住民たちも救われていきます。この”少しずつ”というのが良いんですよね。海面上昇で都市が沈んでしまったというのは大きすぎる問題です。これをはなから解決しようとするのは難しいし、それで諦めてしまったのがアカデミー時代のナツ君でした。”少しずつ”歩んでいったから、エデンの存在を見つけ、町に光を灯し、エデンを元に人工フロートを作り上げるまでに至ったナツの行動が胸にスッと落ちました。

支え合いの大切さを説いた物語

 また『ATRI』は人と支え合う大切さをうまく描いていますね。人と支え合うことが大切なんて言うのは当たり前すぎて、今の時代口に出すのは少し恥ずかしいぐらいだと思います。しかし、どれぐらいの人が自分が支えられて生きているという認識があるでしょう?

 現代の日本ではライフラインがあるのは当たり前であり、食料を手に入れることができるのは当たり前であり、ネットでワンクリックすれば欲しいものが届くのが当たり前になってきています。そんな中、自分が人の支えの上に生きているという意識は薄れ、独りで何でもできるなどと思いこんでいる人も増えてきているように感じます。

 アカデミー時代のナツはその典型で、完璧な義足をつけ、優秀な頭脳と大きな夢を持ち、自分の力だけでなんでもできると思い込んでいました。しかしナツは当然あるはずだった親の支援がなくなったことにより一気に落ちぶれ故郷へ逃げるように帰ります。そんなナツ君も右足の欠損からアトリの存在を受け入れ人を頼ることができるようになり、学校の友達と発電機を協力して作り、住民の希望を照らすことができたことで、人と協力することの大切さに気が付きます。ただ人と支え合うのは大切だと言われても表層の理解にとどまるだけですが、『ATRI』はいろいろな当たり前が欠けた世界でこれを描くことで、改めて人と支えあう大切さを強く伝えることができたのではないでしょうか。

可愛いアトリ

 少しキャラの話をしましょう。アトリは色々な顔を見せてくれて凄く可愛かったですね。私達が愛らしいと思うように仕向けた明るいアトリ、ロボットのふりをしたアトリ、感情を認識して照れるアトリ、全てが可愛く、一粒で二度、三度おいしいキャラでした。アトリの奥歯を磨いてあげるシーンが何度も入るのですが、それがいちいち可愛く、変な性癖に目覚めそうになったのが恐ろしいです。

 そして最初にも書きましたけど、CGが物凄く綺麗なんですよね。今まで10年以上ギャルゲーをやってきた中で一番良かったと言えるかもしれません。海の中でキスをするCGを見た瞬間私の心は奪われましたし、夕暮れの中で笑いかけてくるアトリのCGは可愛らしいのに綺麗で、エデンで鳥たちに群がれるアトリのCGは額縁に飾っておきたいぐらい良かったです。シナリオとか他のいろんなもの全部おいておいてCGだけで2000円以上の価値があると断言できますね。

全ての若者へのエール

 話をシナリオの話に戻して、『ATRI』は夢を持つこと、未来に生きることを強く主張していましたね。この対極となる存在として作中ではヤスダが悪役として登場します。

 作中悪役として登場したヤスダと夏生は似たところを持っていました。科学的見地からロボットに心は生まれないのだからアトリは不良品であるとするヤスダ、科学的見地から地球は救えないと考えた夏生。お互いアトリが実際感情を持っていることや、メガフロートエデンの存在によりその見地を否定されています。

 科学的見地から論理的に物事を考えていくことは勿論重要なことだといえます。現代社会はこの価値観から隆盛したといっても過言ではないでしょう。しかし、私達はこの科学的見地というのは”現代”の科学技術を基にした見地であることを忘れてはいけないのだと思います。

 科学はあくまで”過去”の事象を基にした仮説であり、未来のことは誰にも分からないのでしょう。だからといって科学を軽視しろと言っているわけではなく、『ATRI』は過去に囚われることなく夢を見ていいと言っているのだと思います。

 この情報時代、ネットを通じて私たちは必要な情報を簡単に得ることができます。これは便利である一方、若者にとっては不幸な側面を持ち合わせているでしょう。ネットでは様々な情報を手に入れることができる反面、想像の余地も減ってきているのではないでしょうか。本来もっと自由でいいんですよね、夏生の祖母が海面上昇の対策として、海面上昇そのものをどうにかすることでなくメガフロートを作ったように。温暖化を止めるためにはどうする?じゃなくてもっと別のアプローチがあっても良いのです。もっともこれぐらい考える人は一杯いるとは思いますが、大事なのはどんな夢を持ってもいいということ、『ATRI』は全ての若者に対してエールを送っているのではないでしょうか

終わりに

 『ATRI』は最近のエンタメ要素が強いギャルゲー界では異色の作品になると思います。腹を抱えて笑ったり、可愛さに悶えるような作品ではありませんでしたが、シナリオ・CG・演出全ての調和がとれており、アトリと過ごした45日は楽しく、My Dear Moments——まさに私の心にどこか残るような良作でした。