マダツボミの観察日誌

古典からギャルゲーまで備忘録兼感想帳

『彼女が恋した繁華街』感想(ネタバレしかない)[8/24追記]

ライフアリトルさん制作の『彼女が恋した繁華街』クリアしましたので感想をば書いていこうと思います。ネタバレの塊みたいな感想なんでご注意!

 

『彼恋』は話の根底を貫く、受け継がれる想いとそれを受け継ぐ義務、だからこそ未来に生きよ、幸福になれ!というメッセージ、それがよく伝わってくる作品でした。

話は蓮太郎の過去回想から始まります。大正ロマンあふれる舞台設定からの蓮太郎とお藤が仲を深めていく様子は、もどかしい感じがよく伝わってきて、ニマニマできました。しかし幸せな日々は長く続かず、お藤に婚約者が現れます。お藤は祖先から受け継がれる想いを捨てられなかった、だから蓮太郎とは別れることとなりました。受け継ぐことは義務なのだから。そして蓮太郎は全てを捨て、彼女が想像した世界、織衣舞街に逃げ込むことになります。

このときの蓮太郎を責めることはできないでしょう。憎むべき婚約者誉は、自分よりも悪い境遇で、しかもお藤のことを幸せにしてくれると蓮太郎に思わせました。行き場のない怒りは虚無へと変わり、そんな中、一生恋人の分身と過ごせる世界(織衣舞街)への片道切符があったら乗ってしまうのも無理ないでしょう。だが彼は間違っている、お藤は蓮太郎に未来に生きて幸せになってほしいと願ったでしょう、つまり想いを受け継ぐ義務を彼は放棄したということになります。だからこそ罪の意識を持ってしまった。愛しくてしかたなかったであろうお藤の分身、百合花に手をださなかったことからもそれは明らかです。

織衣舞街での変化のない生活に変化がおきます。春輝達やかつてお藤と夢想したリコが彼の生活に現れます。誉によく似た春輝とお藤の分身の百合花や娘のリコが仲良くなっていく様子を見るのはさぞむかついたでしょう、自分が蓮太郎なら発狂してもおかしくないです。さらに時間の概念を持った杏が現れ、蓮太郎を現実に引き戻していきます。

ここで本作品唯一の選択肢が出現します。すなわち、お藤の想いを受け継ぐか否かです。ここで想いを受け継がないとBADエンド(誰恋百合花エンド)へとなります。受け継ぐことは義務なのだ、義務から逃げ続けてもいつかは追いつかれそして壊れます。仏教では、すべての存在は相互の関係性によってのみ現象しているという考え方があるそうです。最後、蓮太郎が消えてしまったのは、想いを引き継がなかったために関係性がすべて途切れ存在できなくなってしまったという風にも解釈できます。

さて想いを受け継いだルートを選んだとき、すべての問題が解決されていきます。その中で蓮太郎が身を引いてまで、お藤が受け継いだ想いを全く理解せず怠惰に生きる春輝に対し、蓮太郎は今作で私が一番好きな台詞を言います。

「夢がないのは罪だ。お前は未来を見ないといけない」

夢がないのは罪なのです。何故なら子に夢を見させるために、祖先は、お藤は、想いをつないできたのだから。さらにこれは蓮太郎自分自身にも言っているのでしょう。俺は罪を犯した、だからお前たちを現実に帰し想いの連鎖を途切れさせないようにすることで償おうと。

 現実への帰還の際、春輝は蓮太郎に対し、一緒に帰らなければ駄目だと言います。このシーン、私は春輝の成長が感じられて嬉しかったです。恐らく幸福であろうオリーブ街でのリコと百合花との3人での生活よりも、現実で未来で生きることのほうが蓮太郎にとってはよい、もしくはしなければならないと思うのは、来たばかりの春輝では考えられなかったでしょう。

現実に帰還し、お藤とも再開し約束を果たします。そして蓮太郎は杏という未来を選び、幸福な人生を送っていく。素晴らしい、誰も不幸になることはないハッピーエンドだと思います。

 

現代日本は人と人とのつながり特に縦のつながりは希薄になっているように感じます。年寄りは老害とし、また親や先生への敬意は薄れています。さて、それも時代の流れ、仕方のないことでしょう。しかし、私たちの過去には彼ら彼女らの想いがあり、さらに過去に連綿と続いてきた想いがあります。今一度、これらの想いの上で今生きているということを認識しなおし、そして幸せに生きることについて考え直そう、そんなことを思える作品でした。

 

最後にいくつか彼恋に対してのツッコミまたは考察

〇蓮の作った懐中電灯

作中、蓮太郎が誉のために作った懐中電灯、関東大震災で瓦礫の下にいた婚約者を探し出すことができなかった後悔から、次回同じようなことがあったときにお藤を必ず探し出せるように作ってもらったとのことでした。さらに、お藤と誉は結婚したあと神戸に行くということで、私は地震、神戸、あっ・・・ってなったんだけど特に作中では述べられている様子はありませんでした。残念

〇春輝に惚れる百合花

春輝は誉に似ていて、百合花はお藤の分身であるという設定でした。つまり百合花が春輝を選ぶということはそういうことで、ちょっとかなり悲しくなりますね。

〇藍の能力

作中、藍の能力は現実世界と織衣舞街をつなぐ能力という風に述べられていました。しかし、これは能力が織衣舞街という想像の世界に来た事によって夢が変化したものであるという説明と矛盾するんじゃないでしょうか。卵が先か鶏が先か的な問題ですが。まあ現実世界でも百合の花咲かせられるくらいだから、その辺はどうでもいいのかもしれないです。

〇蓮の夢

蓮太郎の夢は電気技術士になることでした。しかし織衣舞街に来たときに夢が能力にかわるという現象のせいでかなってしまい、お藤とのもう一つの夢、喫茶店を2人で営業するという夢を追うことになります。しかし現実に帰ったときに、彼は電化製品を自由に作るという能力はないはずだし、お藤との縛りはないはずです。ただ物語の終わり方としては胡蝶蘭を現実世界でも開いてという終わり方は綺麗ですのでなんともいえませんが。

 〇杏の病気

彼恋グッドエンドでは元気な姿で働いていることが確認できた杏ちゃん。はてずっと病院で寝たきりでまともに動くこともできなかった彼女が3年で、こんなにも元気であるのは違和感があります(BADエンドでは衰弱死している)。というわけで二つほど可能性を考えてみました。

考えられる可能性1:実は手術すれば治る病気であったが、勇気がでずにそのままにしていた。しかし、織衣舞街での生活を通して強い生への渇望を感じ、手術を行うことを決心し成功した説。

普通にありえそうな話ですが、面白くないので私的には次の説を推したいです。

考えられる可能性2:時間がとまったような病院の中では、杏と関係性を持つのは春輝だけだった。それは感想でも述べた仏教的な考え方だと消える一歩手前である。そんなとき、彼女は織衣舞街へ行き、藍や百合花、リコ、そして蓮太郎との強いつながりを得たことによって存在が強固なものになった。それゆえに治らなかった病気が治るようになった説。

こっちのほうが本作品にあってて良いかなと思ってます。他に有力な説があれば是非教えてください!

 

長くなりましたが、こんな感じで締めたいと思います。思わぬところで良い作品に出会えて私はほくほくです。ありがとうございました。