マダツボミの観察日誌

ギャルゲーマーによる、ギャルゲーやラノベの感想、備忘録とか

【ノエルちゃんヤリ捨て事件被害者の会】メモリーズオフ-Innocent Fille- 感想【ネタバレ注意】

 『一番好きなギャルゲーは何ですか?』

 今まで10数年、色々なギャルゲーをプレイしてきて、面白い作品は沢山ありました。しかしあえて一番好きなギャルゲーを上げるとしたら――私をこの世界に引き込んだ”想い”出であり元凶の作品『メモリーズオフ』シリーズと答えるでしょう

 今回はこの『メモリーズオフ』最終作『メモリーズオフ-Innocent Fille-』を発売から2年経ちましたがトロコンしたので感想の方を書いていきたいと思います。

f:id:saijunior2002:20200709175856p:plain

 

変わってしまったあの子

 実を言えば、私はこのゲームをプレイするのが怖かった。それはサスペンス的な要素が含まれているから――というわけではなく、私の想い出の中のメモオフが素晴らし過ぎて、そのイメージが壊れるのが怖かったんです。

 『メモリーズオフ』シリーズは、6から少し毛色が変わり、ゆびきりの記憶から明らかに方針転換したように私は感じていました。バイオレンス展開やドロドロとした人間関係を全面に押し出した広告を見て、確かにそれはメモオフの一つの要素ではあるけれども、それがメモオフの良さではないと思い、ゆびきりの記憶は購入したもののプレイしていませんでした。私が好きなメモオフは記号化されていない”自然”なキャラクター達が織りなすストーリーなんです。皆が他者を思いやって動いているのにうまくいかなかったり、些細なすれ違いからどうしようもない選択を迫られたり、そんな話が好きでした。

 さて、メモオフIFについても同様の広告がうたれていましたね。RAINシステムなどはメモオフのシリアス要素を全面的に押し出したシステムだと思います。正直私はこの売り文句を見てかなり不安になりました。そのため購入してから2年も放置してたわけですが、いつの間にかPC版も出ていたし、やはり最終作ということで気になって今回プレイしました。結果としては、私の不安は半分的中してしまいましたね

メモオフIF総評

 前置きが長くなりましたが、プレイ後の感想です。

 ラスト直前までは間違いなく『メモリーズオフ』でとても満足していました。ノエルちゃんは圧倒的なヒロイン力を見せ最高に可愛かったですし、扱うテーマもいじめ問題や精神疾患と重い問題が多かったものの、(いじめの実行犯の二人組を除いて)皆が互いのことをはじめは思いやりながらもどうしようもなくなってしまう展開は自然で、重い話でありながらもどこか優しさを感じられるようなストーリーは私の好みでした。また二転三転していく話は予想がつかず、ミステリ小説を読むような楽しみがありましたね。ちょこちょこ出て来る過去作ヒロイン達もファンとしては嬉しかったです。いのりちゃんのなぞなぞターイ・・・は久しぶりに聞いても可愛いかった。

 しかし、ラストの展開、春・冬エンドは、私が思い描いていた『メモリーズオフ』ではありませんでした。というかメモオフとか抜きにしても、ラストの展開には言いたいことが山ほどあります。驚きの展開を越えて超展開であるし、超展開の先になんとも奥歯に物が挟まったような終わりと、どういう意図を持ってこうなったのか小一時間問い詰めたくなりますね。超展開なら超展開でせめて感動させてくれ、泣かせてくれと声を大にして言いたい。

 メモオフとは?

 じゃあお前、メモリーズオフってなんだよって言う話しなんですが、これはシリーズのテーマを考えるのが一番分かりやすいと思います。

 メモリーズオフ』のシリーズを通してのテーマは、過去=雨を乗り越えるために、現在のヒロインor主人公=傘をさして未来に歩いていくことだと思います。ノエルルートであれば、共に周りに馴染めないという似た境遇のノエルとの出会いを通して、過去を乗り越えていくという話だし、寿奈桜ルートであれば主人公に並び立つために弱い自分を変えていくという話だし、柚莉ルートであれば琴莉という過去を乗り越えて、今いる柚莉と未来を生きていくというまさにメモオフらしい話だったと言えます。じゃあメモオフIFのグランドである春・冬エンドはどうだったかというと、この仕組みが破壊されてるんですよね。

主人公の罪の喪失

 主人公の累は「琴莉を守れず、自分だけが生き延びてしまった」という罪の意識を持った少年です。春・冬エンドはそれが真相が解明されていき、「琴莉を助けるために、彼女の父親を殴り結果として殺してしまったこと」に変化します。そして最終的には琴莉の父親の死因は希莉がナイフで刺したからということがわかるわけで、つまり彼の罪が丸ごと消えるわけですよね。だから彼は過去を乗り越えたわけじゃない。雨は勘違いだった。じゃあヒロインの瑞羽に越えるべき過去があったかと言われれば、そんなこともない。ここが私がラストの展開がメモオフぽくないと思った最大のポイントです。

存在しないノエルTRUE

 そして春エンドがノエルと瑞羽のダブルエンドだったということも違和感を感じたところでした。単純に私がノエルちゃんが滅茶苦茶好きなので、ノエルTRUEエンドみたいなのが欲しかったということは勿論ありますが、メモオフの主張として過去を乗り越えて未来を歩むというものがあるわけで、過去の女である瑞羽を振り切って、今大切なノエルを選ぶというエンドがあってもいいと思うのです。というかヤリ捨てはあかんで累くん。想君のように二つTRUEを用意してくれれば私のこのやりきれない気持ちは半分ぐらい救われたはずです。

メモオフ界での最強の存在

 ただこうなった理由も分かります。瑞羽の存在はズルですよね。今まで『メモリーズオフ』シリーズでは、死んだ人達は最強の敵として扱われてきました。1stの彩花をはじめ、想君のテンチョー、とぎれたフィルムの雄介、三木さんなどなど。想い出は時間が経つにつれて美化され続け、今生きている人が勝つことなどできないという主張だったと記憶しています。だから死んだはずの初恋の人琴里が生きていたという設定はメモオフでは最強ですよね。そういう意味では今までの流れをくみ取ったEDだったのかとも取れます。

 しかしそれにしたってもう少し瑞羽の掘り下げをしても良かったと思います。想い出は美化されるもので現在とは違うはずで、実際、日紫喜瑞羽と記憶の琴里につながりはありませんでした。でも正体を明かしたと同時に瑞羽は急に琴里になるんですよね。ノエルちゃんの誕生日プレゼントに竹刀をプレゼントしようとする人が、いきなり累ちゃん・・・ってしおらしくなるの違和感ありません?

ノエルちゃんヤリ捨て事件被害者の会

 日紫喜さんと琴里がつながらないから、累がノエルを捨てて琴里を選ぶというエンドに違和感があるのです。久世さんが殺されるまでずっとノエルと甘い日々を過ごしてきたわけじゃないですか、BADエンドで散々殺されてきたわけじゃないですか、それなのにぽっと初恋の人が出て来て全て奪ってくってどうなのよ?と思うわけです。日紫喜さんとの繋がりがあって累君がなんとなく日紫喜さんに惹かれていて――というなら分かるんですが、そういうわけではなかった。まあ初恋の人に久しぶりに再会したからと言って婚約者も社会的地位も捨てて初恋の女性に走った主人公もいたことですし、初恋は呪いなんでしょうけど、それならそれでそういう心理描写をもっと入れて欲しかった。

 そもそも何故累が琴里のことをこんなにも執着していたのかと言えば、琴里を火事で守れなかったからという罪の意識からですよね。真相を知った以上、生きてて良かったという気持ちはあれ、好きだ!とはならなくないでしょうか?大体が一度琴莉と決別したところで気持ちの整理はついてるのだろと言いたい。柚莉ルートはそれでも琴莉を忘れられなかったから会い続けたというルートであり、あの場面で決別できたのならば琴里がいざ現れてもそこまで惹かれることはないはずです。実際、瑞羽が琴里だと告白した際、極めて累は冷静だったように見えます。生きていたことに嬉しいという気持ちはあったと思いましたが、色恋とは別の気持ちだったのではないでしょうか。

 また、ノエルが「累さんは琴里さんのことを裏切れないことを知っています」と言っていましたけど、それはおかしい。客観的に見て真相解明後の琴里は累のことが今でも好きな初恋の女の子に過ぎず、それを裏切れないと言うならば、累君のことが好きで好きでしょうがないノエルちゃんを裏切ることはできないでしょう。だから冬エンドはただの同情に見えるんですよね。ノエルは光の中に生きているからいいけど、リーチも柚莉も奪ってしまって独りぼっちな琴里は可愛そうだから一緒にいるみたいに思えるのです。ある意味寿奈桜ルートと同じですね。もしかしたらそれが正解なのかもしれませんが、そのエンドにして我々にどう思って欲しかったのかが分からないです。

リーチとシャイロック

 と、ここまで色々講釈かましてきたわけですが、何よりも春・冬エンド最大の問題点はリーチと柚莉が救われないということに尽きると思います

 最後のリーチのセリフ『ベニスの商人』から、ライターはラストのシーンを通して過去との決別を描きたかったんじゃないかと考えています。ベニスの商人の高利貸しシャイロックの境遇とリーチの境遇は似通っていますね。作中、シャイロックは裁判に敗れ命の支えである金を奪われ、娘には逃げられ、そして改宗させられます。リーチでいえば金は琴里であり、娘は柚莉だったのでしょう、そして累に改心しろと迫られる。リーチはこのベニスの商人シャイロックのすべてを奪い改宗までさせる様を、主役側の傲慢だと考えていたのではないでしょうか。だから最後の台詞『ベニスの商人』は、お前何様だ?の意であり、これは累との決別を指しているのでしょう。しかし、過去との決別っていうけどリーチや柚莉の存在を捨てることがグランドなのかと問いたい。リーチや柚莉が明らかに悪側の存在であれば、その展開も悪くないですが、Twinルートで散々仲良くやってきたあとにこれはむごくないですかね?

舞台装置から逸脱できなかった希莉

 そもそも希莉の存在は必要だったのかという疑問があります。物語を劇的にするための装置にしか見えないんですよね。希莉がいなくて久世さんが殺されてさえいなければいくらでも何とでもなったでしょう(というか久世さんは殺されてしまうほど悪だったか?)。それか、久世さんと早めに分かり合って、リーチの暴走を止めた後瑞羽と繋がるというエンドがあっても良かったと思うわけです。柚莉ルートで、DIDの症状を回復させるためには琴莉を受け入れることが必要だという情報をプレイヤーは手に入れています。春・冬エンドは柚莉ルートが前提条件になっているわけですから、この知識も使いつつグランドフィナーレに導いてほしかったというのが私の率直な思いです。

ノエルちゃんが最高な話

 では、一通り文句を言ったところで良かった点について少し語っていきましょう。

 メモオフIFで一番良かった点はノエルちゃんが圧倒的に可愛かったことですね。ギャルゲーにありがちな記号的な可愛さではなくて、素朴な可愛さが良かったです。見た目が好みなのは勿論なのですが、累とのやり取りが凄く好きなんですよね。累もノエルも口数が多いキャラではありませんが、言葉を多く交わさなくても通じ合ってるというのが伝わってきて見ているこっちもほっこりしました。ただほほ笑んでいるだけで、好きだという気持ちが伝わってくるのが、もう可愛すぎますね。そしてそんなノエルちゃんがシーツ一枚で誘ってくるんですよ?こんなん断れる奴おらんやろって変な関西弁になりながら突っ込んでました。こんなヒロインと比べられてしまう寿奈桜ちゃんは本気で不憫に思います。

うまく歯車がかみ合った柚莉ルート

 シナリオとしては柚莉ルートが好きでしたね。二重人格との三角関係と言ってしまえば簡単ですが、そこには累君の初恋との関係があったり、実は琴莉自身も柚莉の願望から生まれていて彼女の一部だったりと複雑な関係が入り混じりながらも綺麗に終わらせているのに感動しました。ダブルルートはあるけど琴莉ルートはないというのが物語の主張ともあっていますね。琴莉はあくまで柚莉であり琴莉じゃない、だからこそ一つに統合できたのだという。最後サスペンス要素もありましたが、ルートの雰囲気が壊れない程度で個人的には満足いくルートでした。

パワポケを思い出すRAINシステム

 システム面もRAINシステムは正直どうかなとはじめは思っていたのですが、時間制限つき選択肢というのが演出の幅を広げているように感じ、好印象でした。選ばないのが正解とかパワポケを思い出して懐かしい気持ちになりましたね。

 終わりに

 さて、時は2020年、最早純粋な選択式のギャルゲー、しかもエロなしというのは絶滅危惧種ですね。そして、あまり最近のギャルゲーを沢山やっているわけではないですが、ここのところエンタメ寄りのギャルゲーがウケているように感じます。ノラとととかぬきたしとか、9-nine-もどっちかといえばそっちよりですよね。

 そんな中ではメモオフも変わらざるを得なかった、ということは分かります。しかし、7年振りにこの作品を出したからには、ラストメモリーズと名を打つからには安っぽいホラーサスペンスに逃げずに、ほろ苦い純愛劇を貫き通してほしかった、私はそう思ってしまいます。

 と、ここまでメタクソに書いてきましたけど、ラストの展開を除けばメモオフIFは名作になり得た作品だったと思います。ファンサービスも一杯ありましたし、結構満足感もありますね。警告劇場のごきげんようオチを久しぶりに見れて本当に嬉しかったです。それだけに、それだけにあともう一歩頑張ってくれれば、と残念な気持ちで一杯です。

 私がこう思ってしまうのは、もしかしなくても『メモリーズオフ』の想い出を美化しすぎているのでしょう。実は私も冬エンドの累くんと同じく、ノエルじゃなくて琴里を選んでしまっている――ということなのかもしれませんね。