マダツボミの観察日誌

ギャルゲーマーによる、ギャルゲーやラノベの感想、備忘録とか

『こなたよりかなたまで』感想

 『思う通りに生きるのは難しい。美味しい所だけを選んでいきることなんて、不可能なのだ。』 遥彼方

 

 冬ゲー第二弾ということで、こなたよりかなたまでをプレイしてきました。こなかなはOPテーマの『imaginary affair』が有名で知っていたのですが、本編は初めてでした。

 早速感想ですが、『こなかな』は凄い人間臭い作品でしたね。よく考えてみれば当たり前のことなのに、他人のことを下手に気遣ったり、病気などの外的要因によって行動が歪み、自分のやったことを正当化して、間違い続けてしまう・・・。それは第三者から見れば行動に矛盾があるなとか、一貫していないなとか思ってしまうわけですが、実際にはありがちな話ですよね。人は思いのほか思い通りに生きていけない、美味しいところだけを選んでいきることなんてできないを突き詰めた本作は非常に共感でき、私は好きでした。テーマがはっきりしてる作品はわかりやすくて良いですね、あまり一般受けしない作品であるとは思います。

 個別ルートとしてはいずみ・優ルートが一番好きでしたね。主に回想で進み、ギャルゲー感は薄かったですが、病気を通して優が心を開いていく過程が丁寧に描かれており、良かったです。特に、自分が先に死ぬことによりお爺ちゃんや他人を傷つけないために無感情で他人と接していた優に、彼方がかけた「頑張らなくていいんだ」は巷で見かけるそれとは重みが違っていて胸を打ちましたね。

「何故なら僕は君より先に死ぬ」

 かつてこんな説得力のある頑張らなくていいがあったでしょうか。この台詞は彼方にしか言えないから本当に良いんです。そしてこれと対比した優の「私を置いていかないで」は思わずほろりとしました。人を拒絶していた優が我儘まで言えるようになった、普通の子供になることができた瞬間で嬉しくなると同時に、それでも彼方は長くは生きられなくて別れは必ず待っているのが悲しい。でも大切なことは時間に関係なくあって、死ぬまでの日常をただ一緒にいたいというエンドは素晴らしいの一言に尽きました。

 他のルートはまあ普通でしたね。クリスノーマルは真相を知ってしまうとあまりにクリスが可哀そうでしたが、今ある日常の延長で人生を終えたいという彼方の台詞はどこまでも間違っていながら正しく、考えさせられました。佳苗ルートは、実際に素直に言ってみれば何てことない話だという優しい世界エンドで、九重ルートは人のぬくもりを最後まで求めてしまうエンドだったんでしょうか。

 キャラとしては暗示を解かれる前のクリスが好きでしたね。おしとやかモードも嫌いではないですが、あの元気なクリスが好きだったので、終盤はずっと元に戻ることを祈ってました(戻りませんでした)。

 

 さて少し考察を。『こなかな』は死を目の前にした人間がどう考えるかを題材として、人の普遍的な生き方を提示している作品だと思います。死生観についてを語った話ではないということがポイントで、彼方の独白にある

「本当に大事な事には時間など関係ないはずなのだ。」

が全てを物語っています。だから作中主人公が死ぬシーンや別れのシーンはクリスノーマルしかないわけですね。そういうシーンは簡単にお涙頂戴できるわけで、ここまで描いたら入れ得だと思うのですが、ライターはあえて入れなかった。

 では一体時間が関係ない大切なことは何かと言えば、とても単純なことで、思ったことをそのまま言うことであったり(クリス、佳苗)、人のぬくもりの存在(いずみ、優)だと作中で述べています。改めて言われるまでもないことですが、主人公彼方の置かれた状況がこれらの事の大切さを際立てているのです。

 

 『こなかな』は昔の作品ですが、人間の普遍的な心理を描いており、短いながらにテーマがはっきりとしていて、綺麗にまとめられた佳作と言えるでしょう。寒い日の続く、この冬の季節に心温まる本作をプレイできて良かったと感じています。