マダツボミの観察日誌

ギャルゲーマーによる、ギャルゲーやラノベの感想、備忘録とか

『西野』という新ジャンルライトノベルのススメ

 異能で世界最強、近年『なろう』系として人口に膾炙された要素ではありますが、そんなありふれた要素でも書き手の表現一つでいくらでも調理できるんだなと感じさせてくれたタイトルがあります。 

  テイルズオブ西野、改め『西野~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~』です。タイトルからああいつもの奴ね、と思った方、ちょっと待ってください

 『西野』は現代日本を舞台とした、世界最強の異能力を持った西野少年のお話です。この一文を読んだ人は、「ああいつものなろう小説ね、異能力逆輸入型で世界最強してハーレム作るやつでしょ?知ってる知ってる」と思うかもしれません。

 確かに西野は持ち前の異能力で、マフィアを制圧したり、ヤクザに連れていかれた女の子を助けたりします。高校生でありながら六本木のバーでウィスキーを楽しみ、会話の節々からハードボイルドな雰囲気を醸し出します。最近の流行りからすれば、悪漢から女の子を異能で助けた後に、「ふぅ、このことは内緒にしといてくれよな?」とかハードボイルドに決めて、可愛いクラスの女の子と仲良くなったりするところです。

 ですが西野は違います。西野は決してブサイクではないが、断じてイケメンではない、フツメンでした。するとどうでしょう、ハードボイルドに決めている西野は一転勘違い野郎に成り下がり、ハーレム形成どころかクラスで虐めにあいます。果たして今まで異能力をもらった後に虐められた主人公がいたでしょうか?

 それでも、西野の異能力という背景を知っている読者からすれば、カッコよく見える部分もあるはずなのですが、作者のこれでもかというぐらいの悪意のこもった表現により、我々読者にも西野が勘違い野郎に見えてきます。これがじわじわ来ます。

 また、元々この作品はカクヨムに投稿されていたものですが、文庫になり、挿絵がついたことで、シュールさが増しました。普通のラノベであれば可愛い女の子や、主人公のカッコイイ戦闘シーンを挿絵にするでしょうが、『西野』は違います。西野の顔芸やカッコイイはずなのに勘違いオタクがキリトの真似して記念撮影したような戦闘シーンをふんだんに盛り込み、徹頭徹尾、私たち読者を笑わせてきます。西野のキャラデザが完璧すぎます

 そんな『西野』にもラノベにお約束の美少女たちが多分に出てきます。ただそこは『西野』、まともな女性はほぼ出てきません。西野の食事に自分の体液を入れるロリ、父親と近親相関したいファザコン女子、メンタルクソザコメンヘラ女子などなど、パンチが効いたキャラクター達が物語を彩ります。一番最初に出てきた金髪ビッチ女子が一番まともな人間に見えるとは誰が思ったでしょうか?『田中』のときもそうでしたが、この作者は変態を描写するのが上手いですね。こんな上げ方をしたのははじめてです。

 正直言って1巻2巻あたりは、流石に西野が可哀想で、読んでいて少しメンタルがやられそうになりましたが、爪はじきにされても全くめげず変わらない西野に段々と回りの人間も順応していき、3巻ぐらいからは頭のおかしいラブコメという感じなっています。どこまでも超然としている西野に勇気づけられる人もいるかも?

 最近の異世界最強ものに辟易しているラノベ読者は一度お手にとってはいかがでしょうか?きっとシュールな笑いがあなたを誘いますカクヨムで無料で読むことはできますが、『西野』は挿絵がついてパワーが増すタイプの作品だと思いますので、文庫版を読まれることおススメします。